・ロダン宛書簡
明治四十年(一九〇七)十二月十六日
(ロダン美術館所蔵)
ウォルター・パッチのアトリエ
パリ、カンパーニュ・プルミエール通九番
一九〇七年十二月十六日
友人が汽車の時刻を間違えた為に、残念ながら、最後のお別れの言葉が、願っておりましたよりも、少々慌ただしいものになってしまいました。
そのため、申し上げることのできなかったことがございます。私どもが、鈴木春信―女性の内奥の美を表現することにかけては日本で最も秀でた―の絵を選んだのは、先生にとりわけ相応しいと考えているからです。先生は人間の崇高さを驚くべき方法で彫刻に表現する、世界で最も優れた芸術家であるからです。
先生と奥様とに、こうした二度と忘れ難い作品を拝見するという恩典に与らせて下さったことにもう一度厚くお礼申し上げると共に、私共の格別なる敬意をお受け取り下さいますようお願い申し上げます。
荻原 守衛
ウォルター・パッチ