ごあいさつ
基俊太郎(もとい しゅんたろう 1924-2005)は、東京美術学校(在学中に学制改革により東京藝術大学に再編)彫刻科で教授・石井鶴三、助教授・笹村草家人に学び、再興日本美術院彫塑部で活躍した彫刻家です。卒業後は石井研究室の助手となり、彫刻制作を続けながら、空間への意識を高く持ち、建築、造園、家具の研究も行いました。やがて講師となりますが、その職を一年ほどで辞し二年ほどニューヨークへ渡ります。そこではレストランの中庭の設計やハーバード大学の造園科から講演の依頼を受けることもありました。この滞米中に美術院の彫塑部が解散し、それ以後はいずれの美術団体にも属しませんでした。 基は空間を、尺度感のない「見る空間(視覚空間)」と尺度感のある「歩く空間(住空間)」とに分類し、前者のように見るだけの空間ではなく、後者のように体感する(基の言葉で言えば「空間をプレイする」)ことのできる空間を重視しました。そして芸術は前者のようなともすれば異次元のものではなく、後者のように日常性のあるものだとも考えていたのです。この「住空間」という基の空間意識、そして幾何学的造形感覚は、晩年のコールテン鋼を素材として使った彫刻作品によく現れているように感じられます。このたびは生誕100年を機に、モチーフを写実的にとらえた最初期の具象的作品から、晩年の抽象性の高い作品、設計した椅子等も展示します。 基俊太郎が求めた「空間をプレイする造形」の世界を、彼が設計した第一展示棟、事務棟、トイレ棟、第二展示棟、杜江館とあわせてご覧ください。
2024年4月公益財団法人碌山美術館
展覧会会期 2024年6月30日まで会期延長(一部展示替えあり)
企画展 展示作品
基俊太郎の彫刻観
抽象性の高い作品も手掛けた基ですが、本人はジャンル分けして仕事をしているわけではありませんでした。立体造形には具象と非具象がありますが、非具象が即抽象ということではなく、抽象とは、たとえば推古仏に見られるような抽象性を意味すると考えていたようです。「現代の抽象彫刻とは、具象でないということだけだ」と言っています。
基の造形意識は、彫刻だけにとどまらず、建築、造園、家具のデザインにもおよびました。当館の第一展示棟、第二展示棟、杜江館のほか、第一展示棟の椅子も彼の設計です。
資料写真
奄美の生家
東京藝術大学 彫刻科助手時代
ニューヨーク時代