ごあいさつ
「日本の近代彫刻は碌山、光太郎に始まる」と説き、日本の近代彫刻を支えた重要な芸術家の一人である石井鶴三(1887-1973)の没後50年を記念して企画展を開催いたします。 高村光雲門下の加藤景雲に木彫の手ほどきを受け、東京美術学校で彫刻を専攻し、再興日本美術院の彫刻部で研鑽を積んだ石井ですが、日本画家であった祖父・鈴木鵞湖や父・石井鼎湖)、洋画家であった兄・石井柏亭と同じように、85年の長い生涯のなかで平面作品(油彩、水彩、版画、挿絵等)でもその資質を発揮しました。それは、小山正太郎が主宰する不同舎で絵画を学んだ際に小山から教わった「たんだ(たった)一本の線(で描く)」を生涯にわたって造形上の指針として制作し、東京美術学校在籍中に家計を支えるために『東京パック』の漫画記者を勤めた経験などを生かすことによって、いっそう豊かに育まれたものだったのでしょう。まさに「絵画と彫刻とは畢竟其根本一なるべし」とする石井にふさわしい活躍でした。そしてその活躍を支えたのが、生涯をかけて修練し続けた「空間を生かし空間に生きる素描」だったのです。
石井は「内のデッサン」「外のデッサン」という造語を使って、モチーフの構造を内と外から把握するという造型理念を持っていました。石井作品に緊張感が漂うのは内と外とのせめぎ合う臨界として形作られているからなのであり、それゆえにこそ空間に生きる造形となっているのでしょう。
当館が収蔵する作品を通して、石井鶴三の芸術世界の一端や石井が造形に懸けた真剣な思いを感じ取っていただけましたら幸いです。
2023年公益財団法人碌山美術館